Last note〜特性を持つ者へ
「少し、俺と特性同士の話をしませんか?」

そう伝えると、柊木さんはガラスの破片を捨てた。

「…刃物を向けてすみません。
色々と、動揺してるわ…。」

髪をかきあげ、彼女は床に落ちた紫陽花を拾った。

「私の特性は、"Breath"と言います。
吐息で、花や植物を咲かせるもの…。」

「もう一度、見たいです。」

紫陽花はもう、満開だった。
柊木さんは、台所に飾っている小さな観葉植物を代わりに持ってくると俺の前に立った。

「見てて、下さいね。」

彼女が優しく息を吹きかけると、

その観葉植物は生き物のように、

だんだんと元気がよくなっていく。

初めは5センチくらいの
小さな葉っぱだったものが、
しゅるしゅると優しい音を立てて成長した。

俺は改めて近くで見て…涙をこらえた。

「感動的だ。いつから特性を?」

「…10歳の誕生日に、
庭でたんぽぽの綿毛を吹いて遊んでいた時。
周りにあった花々が芽吹き、目の前でどんどん咲き誇ったんです。あの光景はいつまでも忘れられません…。」

特性を持つ仲間…。
そんな存在が今まで居なかったのだろう。

彼女は嬉しそうに俺に話してくれた…。

「"Breath"か…。あなたのような綺麗な特性を持った人は初めてですよ。感動してます。」

「ありがとう…。そう言ってもらえると、
心が救われるわ…。」

柔らかい表情で笑顔を見せた柊木日芽は、
俺に事件の被害者の話をしてくれた。

「実は…被害者の男の人に、写真を撮られてしまったんです。…1週間前に。それで、脅されていて…」

「そうゆう事でしたか。
もしかしてその写真のアングル、
ベランダからのものだったんぢゃ?」

こくんと頷いた彼女。
俺が被害者の部屋の窓から見たように、
被害者もその瞬間をカメラに収めたんだろう。

「油断していました…。
私の特性は何も害はないのに。
あの人は私の特性を知って、国に売られたくなければお金を用意しろって…。」

「打ち明けてくれてありがとうございます。」

ポロリと涙を一粒零して、
柊木さんはそっと俺に近づいた…。

「私の特性を見て感動してくれたのは、
"あの子"以外に、あなたが初めてです…。」

「え…えっ、あの…!?」
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