夏の魔法
夏が近いと、影が沈む
夏が近づき、春の暖かさが少しずつ薄れていく。その日の夜、両親に連れられて、僕はある場所に来ていた。

その場所は――彼が命を落とした場所。僕と彼の思い出の場所でもあった。

「じゃあ、美影(みかげ)くん。これをあの子に…」

母は、僕を懐かしい呼び方をする。僕は、花束を受け取った。

「はい」

僕は、花束を飾った。これは、僕と両親の毎年の恒例だった。

「美影、辛いか?」

僕の顔を覗き込んだ父は、心配そうに聞いてきた。

「大丈夫だよ」

僕は、両親に背を向けて歩き始めた。僕は、墓参りに行く気がない。僕の心で彼は生きている、そんな気がして行けないのだ。

「――英太(えいた)」

僕は、無意識に彼の名前を呼んでいた。
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