彼の溺愛はわかりづらい。
俺がそんなことを思ってるなんて、毛ほども知らないであろう渋川は、ただ一人ぼんやりとどこかを眺めている。
だけど、その表情はどこか安堵しているようにも見えたから、もしかしたら志波に賄賂でも送っているんじゃないかと思った。…俺もすればよかった。
「実行委員は男女1名ずつでーす。やりたい人ー」
…いや、いねーだろ。
「…チッ、めんどくせーな」
…マジか。
志波、彼氏同じ学校じゃなくてよかったな。
「…さっさと決めてくんないと、私が勝手に決めるかんね?先輩とか山センに怒られんの嫌だし」
「「…はい」」
だんだんイライラしてきている志波のちょっとした地響きのような声に、ビビッたらしいクラスメイトほぼ全員が、見事に息ピッタリの返事をした。
俺はもう「なるようにしかならない」なんて思ったから、「早く終わんねぇかなー」なんて思いながら、ボーッと時計を見てた。