彼の溺愛はわかりづらい。
「はいはーい、君たちそこまで。ここ、忘れてると思うけど保健室だから」
「でも、誰もいないんでしょ?」
「決めつけるのはよくないよ、琴」
さりげなく名前呼びに切り替えたはーちゃん先生。
お兄ちゃんと紛らわしいからだろうけど、ちょっとときめいてしまった。
顔がムダすぎるくらいムダのない顔だからだと思うけど。
その横で、海堂がはーちゃん先生を睨んでる。なぜ。
なんでかは知らんけど、その眼で人ひとりくらいは殺せそうだよ。山センだって怖気づくと思うよ。
「…何~?燈。素直になれないのは自分のくせに、いっちょ前にヤキモチでも焼いてんのか~?」
「うるせぇ」
「「違う」とは言わないんだな。図星ってとこか」
海堂に睨まれて怖気づく山センを想像するのに夢中で、二人の会話なんて全然気がついてなかったけど、我に返ったら海堂が不貞腐れてたから、また、はーちゃん先生が余計なことでも言ったんだな…って悟った。
「羽澄が~って、話、お兄ちゃんよくしてるんだよね、家で。ま、主にダサい感じの話だけど」
「…朋って、俺のこと大好きなんだな」
「それ、お兄ちゃんに言ったら絶対しばかれるよ。言っちゃおうかな」
「やめろ!渋川妹!」
…はーちゃん先生の弱味が増えた。
入学式の先生紹介のとき、「はすみ」って聞こえたから、珍しい名前だな~とか思ってたけど、どっかで聞いたことあって。
お兄ちゃんの話によく出てくる人だと思い出したから、すぐさまお兄ちゃんに、その「はすみ」って人の本名を確認したら、めでたく(?)ビンゴだった、と。