イジワル御曹司と契約妻のかりそめ新婚生活
 彼が結婚に対して求めているものは、ただ『結婚した』という事実だけのようだった。はっきりそうと言われたわけではないが、彼が上げ連ねた言葉がそれを物語っている。
 カフェラウンジで向かい合った昨日、お互いにこの見合い話に至った経緯を確認しあった。 私が亀爺に嫁き遅れを心配されたように、彼もまた営業部の上司、沢渡部長に勧められたのだそうだ。沢渡部長と亀爺は同期で仲が良いらしい。


『君がこの話を受けてくれるなら、婚姻届けは早めに出したいと思っている。住居は俺のマンションに越してきてくれれば、部屋がひとつ余っているからそこを使ってくれ。引っ越し費用や、その後の生活にかかる経費は全てこちらで持つ。ただ、すまないが結婚式はできない。あと、必要なのは君のご両親への挨拶だが、勿論早めにうかがわせてもらおうと思っている』


 つらつらつら、と一方的に並べられた、結婚の注意事項とでも言おうか、至るまでの必要事項の確認か。業務報告となんら変わらない口調で、聞いていて今自分が仕事の依頼を受けているような気になって、思わず契約内容の確認をしてしまった。


『あの、それらは口約束ではなく書面でいただけるので……』


 って、違う!
 口に出してから心の中で自分に突っ込んだ。

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