イジワル御曹司と契約妻のかりそめ新婚生活
小一時間ほど一緒に食事をして、帰路を急ぐ。飲み過ぎたので、タクシーに乗った。いや、そうじゃなくて、一刻も早く帰りたかっただけかもしれない。
マンションに帰ると、もう玄関に郁人の靴があり灯りも点いていた。
覚束ない足取りで、テレビの音が聞こえてくるリビングに向かう。
「おかえり。……飲んでるのか」
郁人もリビングのソファで缶ビールを開けていた。
「うん、河内さんに誘われて、行ってきた」
「そうか」
ちょっとだけ口角が上がる。
見慣れてきたからわかる、ごく僅かな微笑みだ。その優しい表情に励まされるようにして、私は郁人の隣に座り。
「郁人さん」
改まって名前を呼んだ。
どうしても、ちゃんと、お礼が言いたかった。