イジワル御曹司と契約妻のかりそめ新婚生活
「結婚すると人間丸くなるって本当なんですねえ。つまらない」
こんな風に言われて、私は河内さんの指摘通り浮かれてしまっていたんだろう。
彼が作った契約書の内容を、もうなかったことのように頭の片隅の方に追いやってしまっていた。
自分たちの結婚がどういうものだったのか、それを改めて思い出すきっかけになるのは、食事を終えて河内さんと駅まで歩いている途中のことだ。
通りは賑やかで、サラリーマンや大学生などの飲み会帰りの集団が多く歩いていた。
「あ、あれ、佐々木さんじゃないですか」
隣を歩いていた河内さんが、不意に立ち止まってそう言った。
振り向くと、車道を挟んだ向かいの歩道を指さしている。
「あ……本当だ」
遠目でもわかる。郁人の綺麗な横顔がはっきりと見えた。