イジワル御曹司と契約妻のかりそめ新婚生活
あまりにも、唐突だっただろうか。そう思うほど、郁人の表情がものすごく、驚いていた。大きく見開かれたその目でただ私を見下ろして、しかも固まっている。
……そんなに、驚かなくても。


「……えっ、と」


反応が何もなくて、困ってしまった。何も言葉がないままじっと見られているだけなんて、居たたまれない。後悔と汗が滲み出てきた。ついでに涙も出てしまいそうだ。
やっぱり、慣れないことはするものじゃない。


「そんな、びっくりするようなこと言った? 深い意味はなくてね、私みたいなの結婚出来たのって郁人みたいな奇特な人がいなかったら無理だったなーって」


笑って誤魔化そうとすればするほど、早口になった。
だめだ。もう逃げよう、今日のところはとりあえず。


「じゃあ、そろそろ寝る。ごめん変なこと言って」


とりあえず、この結婚を後悔してない、良かったと思ってる、ということは伝わってるだろうし今夜のところはこれで良いことにしておこう。

どうにか笑顔を作って、膝の文庫本を手に立ち上がる。
いや、立ち上がろうとした。

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