イジワル御曹司と契約妻のかりそめ新婚生活

そう言うと、更に腕が強くなる。ぎゅっとより密着して、逸る心臓の音が彼にバレなければいいと思った。私はこれだけでもういっぱいいっぱいなのに、郁人は更に、私の首筋で大きく深呼吸をする。
まるで私の匂いを吸い込んで、存在を確かめているような抱き締め方だ。

「歩実……」

名前を呼ぶ声も、私の返事を待つわけでもないように聞こえる。
こんな風に抱き締められて、驚きはしても嫌なわけではない。ただ恥ずかしさが先行して、体が熱くなる。
けれどそれらを押しても、何かいつもと違う彼の様子が気になった。

「ね……何かあったの?」

問いかけに数秒の無言がある。

「……いや」
「ほんとに? なんか変だよ」

今の間はなんだ。
本当に、何か変だ。
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