イジワル御曹司と契約妻のかりそめ新婚生活

手の中にある本を放り出して、彼の背中に手を回して抱き締め返したくなる。それほどに、すがりつかれているような気にさせられる。だけど迷っているうちに、彼の方が腕の力を抜いた。

「郁人?」
「なんでもない。……慣れないことを言うもんじゃないな」

解放されて彼の顔を見上げれば、確かにちょっと、照れたように視線を外している。
本当にそれだけだろうか?
じっと彼の顔を観察していると、瞳が動いて視線が私に戻ってきた。そして、まるでそんなに見るなと言わんばかりに、唇が寄せられる。

久しぶりのキスだった。


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