イジワル御曹司と契約妻のかりそめ新婚生活
今までのキスと少し違ったような気がする。
これまでは、どちらかというと慣れない私に合わせて様子を見ながら。そんなゆったりとした穏やかさは、鳴りを潜めていた。
息苦しさを覚えるほど執拗で、思わず後ろに仰け反った私の背中を支える腕も肩を掴む手も、力強かった。
私はただただ、手の本を落とさないようにぎゅっと握りしめているしかなくて、口の中を深く入り込む舌に翻弄される。
頭の中が溶けてしまいそうで、怖い。けれど逃げたいとも思わなくて、震える膝に力を入れる。長いキスが終わった直後は、力が抜けてそのまま郁人の胸にもたれかかってしまった。
私の身体を受け止め、息が整うまで抱きしめていてくれた郁人が、小さく呟いた。
「……離さないって決めた」
熱い息と共に耳に響くその声は、私の胸を温めて、目を閉じた拍子にぽろりと涙が零れる。
嬉しかった。これ以上、確かなことってあるだろうか。
ずっと傍にいていい、傍にいられる。彼もそう望んでくれていることが、嬉しかった。