イジワル御曹司と契約妻のかりそめ新婚生活
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「歩実さん、何か今日、落ち着きないですねえ」
河内さんは、中々に鋭い。
「そう? 気のせいだと思うけど」
「そうですかあ?」
素知らぬ顔でお弁当を食べる私の顔を、ひょいっと覗き込む。
「例の彼女のこと、ちゃんと聞けました?」
うぐ、と卵焼きが喉にひっかかりそうになった。
返事のできない私に、河内さんの眉が顰められる。彼女にしてみたら、やっぱりな、というところなのだろう。
昨夜、聞きたいことも何もかも、まずは自分の気持ちを打ち明けてから。
そう思って挑んだはずだったのだが、勢いを遮断されたり思わぬ形で郁人の気持ちが聞けて舞い上がったりで、そこから先がすっぽり抜けてしまった。
せっかくあんな空気になったのだから、改めて「すきです」くらい言えば良かったし、あの女性のことも聞けばよかったのに。間が抜けている話だと思う。