イジワル御曹司と契約妻のかりそめ新婚生活
ここにきて、郁人の躊躇いが手に取るようにわかる。
それに、私がこんなことを言い出したのは何か理由があるのかと気が付いたようだ。
「何か、あったのか?」と、目を細めて注意深く私の表情を窺っている。
「私の要求を聞き入れてくれたら、言う」
婚約者に会ったことを話せば、渋々事情を聞かせてくれそうな気はする。だけど、今、この一件だけを聞き出せても意味がない。
ちゃんと腹を割って話せる関係になりたいから、その為には契約内容の見直しは必須だ。
引き下がるものか、と唇を噛みしめて返事を待っていると。
私の手を握っていた手が離れていって、彼が苛立たし気に髪を掻きむしった。びくっと私の肩が跳ねる。常にない粗野な仕草に、怖くなる。
やっぱり怒ったのだろうか、郁人が面倒がって話し合いから逃げようとするんじゃないかと不安になった。
が、次の瞬間、ぱっと顔を上げた郁人は、ふたたび私の手を握った。さっきよりもずっと強い力で、離さないとでも言われているようだった。
「わかった。話すのは構わない」