イジワル御曹司と契約妻のかりそめ新婚生活
「え……」
思っていたよりもすんなりと私の要望は受け入れられ、その割には彼が思い詰めたような表情をしていることに違和感がある。
首を傾げると、今度は彼の方から条件が付け足された。
「その代わり、俺からも条件がある」
「条件?」
「逃げるな」
きょとん、と思わず目を見開いて、しばし考える。
……逃げ……たくなるような家族ってこと?
そういう意味に思え、頬が引きつった。
「う、うん?」
微妙な表情での曖昧な頷きに、郁人は更に念を押す。
「冗談じゃない。真剣な話だ」
「ぜ、善処します」
「……おい」
ぎゅう、と手を握り込まれて、郁人が顔を近づけてくる。
超至近距離、間近で見つめられて……いや睨まれた。
家族、親戚のことを話すにあたり、多少深刻な事情はありそうなのは勿論察していたけれど、逃げるなとこれほど念を押されるとは、一体どういう家族なんだ。
ごく、と唾を飲む。
間近で険しい色を湛えた瞳に、ほんの少し、不安や懇願のようなものが揺れた気がした。
「うん」
まっすぐに目を見て頷いた。
「逃げない」
勘違いしないで欲しい。
ただ隠し事をされたくないとか気になるだけでこんなことを言い出したんじゃない。
この提案は、私たちがこの先夫婦を続けるために、このままではいけないと思ったからだ。郁人とずっと一緒に暮らしたいと思ったからだ。
逃げ出したら意味がない。