イジワル御曹司と契約妻のかりそめ新婚生活

「あいつ……主昭《かずあき》が、嫌がってんのも知ってたんだ。けどまさか、本気で逃げる度胸はないと思ってた。……なんだかんだ、甘やかされて育った世間知らずだしな」
「にしても、文筆家て」
「うっかり、どっかの出版社の小さな賞を受賞したのも良かったのか悪かったのか。もしかしたら、逃げる口実になっただけかもしれないけどな」

郁人が頭痛を抑えるように眉間に手を当てている。
その気持ちがよくわかる。

「で、主昭の行方を捜しているうちに、常盤家が嗅ぎつけて別に相手は誰でもいいと言い出したんだ。後継者になる男なら誰でもいいってな」

それで、これまでは日陰の身でやっていく予定だった郁人に白羽の矢が立ってしまった、というわけだ。

そして何となく、察してしまう。
常盤かすみさんのあの態度から、もしかすると主昭さんよりも郁人と婚約することを望んでいたんじゃないか、と。
それは、邪推だろうか。
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