イジワル御曹司と契約妻のかりそめ新婚生活
「現会長の祖父が、体調が余り良くない。代替わりの準備に叔父が会長職に就いて、主昭にも重役ポストを用意していた矢先のことだった。だから、このところ忙しくしてるんだ」
「もしかして、うちの会社の仕事だけじゃなく、主昭さんの穴埋めもしてるってこと……」
呆然、としてしまう。
そりゃ、帰りも遅くなるはずだ。彼は、ふたつの会社で仕事をしていることになる。
そしてここで厄介なのが、常盤家は代わりに郁人と婚約することに乗り気になっているということだった。
郁人にその気がなくても、会社の取引相手として無碍にはできない。だから当たり障りなく躱しながら、主昭さんの行方を人を雇って探している最中だという。
「どうするの? その会社、継ぐの?」
「そのつもりはない。跡継ぎは主昭だ」
「叔父さん叔母さんも、実の息子に後を継いで欲しいはずだよね?」
「本心はそうだろうけどな。経営者としては……どうだろうな」
沈黙が降りた。
こうして話を聞いて、私には結局どう手助けする方法も思い浮かばないことに途方に暮れる。
本当に、私がこの人の妻でいいの?
そんな気持ちにもなるけれど……彼は、身代わりで跡継ぎ気なるつもりはないと言った。
普通の人で、居て欲しい。手の届く人で居て欲しい。
「ね……なんかちょっと、聞くのも怖いんだけど」
「なんだ?」
「その、郁人が継がされる家、というか会社の名前って?」
嫌な予感しかしない。
もしかしたら、とてつもない大会社だったりするのだろうか。