イジワル御曹司と契約妻のかりそめ新婚生活
「確かに苦手だけど……」
「出来ることなら静かに穏やかに、目立たず生きていきたい方だろう」
「……う、うん?」
勿論その通りだ。
今の会社でも別に出世を狙ってないし、郁人と結婚する前だって私ひとり細々と日々の業務を熟してお給料をいただいて静かに生活したいタイプだった。
さすがに、そうもいかなそうな空気を感じてはいるけれど、何、そんなに私に念押しをしなければいけないような、家柄なの?
自分で聞いておきながら、郁人の苦悶の表情を見て聞くのが怖くなってきた。
私の手を握る郁人の手が、なお一層強くなる。
「まあ……そのうちわかることだし。このまま主昭が見つからなければ、そうも言ってられないしな」
なんだろう、この、じわじわと追い込まれていくような、感覚。
続いて郁人が告げた社名に、やっぱりという感覚もありながら、畏れ慄いてしまったのも、きっと致し方ないと思う。
「眞島商事、聞いたことはあるよな。母方の姓は眞島。創設以降、今も経営陣の半分は親族で占められてる」
「う、うちの親会社じゃない……!」
今私たちが勤める会社の、グループ本社。
日本有数の大企業の名前に、私はそれ以上、言葉が続かなかった。