イジワル御曹司と契約妻のかりそめ新婚生活

どうなるんだろう。郁人は、大丈夫なのか。お祖父さんが、亡くなるかもしれないなんて。

「こっちになんか影響あるんでしょうか。眞島商事だし、何かあった時の後釜くらいしっかり準備してそうですよね」

河内さんが、パソコンを起動し午後からの仕事の整理をしながらそう言った。

「どうかな。よくわからないね」
「そんなトップの人たちのことなんて、全然わかりませんもんねー」

頷きながら、とてつもない不安が押し寄せて冷や汗が滲む。午後から、郁人が今どうしているのか気になって頻繁にスマホを確認してしまい、仕事にならなかった。

郁人と連絡が取れたのは、その日の夜のことだった。
十時を回る頃になって着信が鳴り、待ち構えていた私はワンコールのうちに電話に出る。

「郁人? 今どこ?」
『悪い、今日は帰れそうにない』
「大丈夫? お祖父さんのこと、だよね?」

そう言うと、電話の向こうでため息の音が聞こえた。

『知ってたか』
「うん。こっちで話広まってる」
『今、祖父の病院にいる。すまない、しばらく帰れないかもしれない。ひとりで大丈夫か?』

郁人の方がよほど心配される状況のくせに、私の心配をする。しかも、『ひとりで』なんて子供に対して言うような言葉で、苦笑いをしてしまった。

「私は何も心配されるようなことはないでしょ。子供じゃないんだからひとりで留守番くらいできます」

すると、今度は笑った気配だ。

『そうだな』
「……私は、行かなくていいの?」

夫の祖父が生死を彷徨う状況なら、妻である私も行くべきなのかと躊躇いながらも聞いてみる。返事は早かった。

『いや、いい』
「でも」
『今来ても守ってやれない』

小さな声でそう言われ、続く言葉を飲み込む。何も言えなかった。

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