イジワル御曹司と契約妻のかりそめ新婚生活


「うるさかったら声小さくするか?」
「大丈夫」


 私がふたたび本を読み始めると、今度は彼の方が私に意識を向け、読んでいる本の背表紙を覗き込もうとした。私が何を読んでいるのか気になったようだ。ちょっと本を持ち上げて見せると、彼は少し眉を上げた。


「ミステリー?」
「そう。意外?」

「前は恋愛小説だった。なんでも読むんだな」
「色々読むよ。ファンタジーも好きだし。物語を追うのが好きなの、自分の人生じゃないけど、読んだ分だけ共有できる気がするから」


 子供の頃から好きだったけれど、昔はもうちょっと単純に楽しいから、ってだけだったように思う。けれど大人になってからは、面白みのない自分の人生よりも本の中の誰かの人生に惹かれて読んでいる気がする。

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