イジワル御曹司と契約妻のかりそめ新婚生活

三差路に差し掛かり、駅とは違う方向へと足を向けたので、私もあわてて後を追う。どうやら行きたい店も決まっているようだ。


 お好み焼きと言えば、中学の頃、家までの帰り道でいつも美味しそうなにおいをさせていた店があった。うちは外食なんてしないから、いつも匂いに誘われるだけで入ったことはない。
 同級生が数人、友達同士で学校帰りに立ち寄ったりしていたけれど、ぼっちの私はその頃にはまだ今ほど開き直っておらず、ひとりで入る勇気はなかった。今なら、ぼっち飯にもすっかり慣れたものだけれど。それでも、店に入ってお好み焼きを食べるのは実は初めての経験だったりする。


 そして今日は、ひとりじゃない。


 熱せられた鉄板の上で、じゅうじゅうと音を立てているお好み焼きが三枚。ここは自分で焼くお店のようで、なんと郁人がやってくれた。


「……すごい。私、実はお好み焼き、初めてで」
「……そんなやついるのか」


 怪訝な顔をされてしまった。

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