イジワル御曹司と契約妻のかりそめ新婚生活


「何がって、今日の仕事のことです。ご迷惑をおかけしました」


今度こそ、本当に拍子抜けしてしまった。
ぽかんとする私の前で、彼女は呆れたような顔をする。


「忘れてたんですか? 今日のことですよ?」
「え、いや、そうではないけど」


嘘です。忘れてました。
というか、すり替わってました、河内さんを郁人が慰めていたシーンを見てしまってから。

仕事はちゃんと間に合ったのだから解決した問題だったし。
河内さんによく思われてないことはわかっていたので、まさかこんな形で謝られるとは思ってもいなかった。


「あ、気を使ってくれてありがとう。仕事はちゃんと間に合ったから」
「はい。聞いてます。でも私からもちゃんと言いたかっただけです。ありがとうございました」


ちゃんとお礼を言いたかったから、親しくもない私を食事に誘ったということ?
案外律儀なところがあるんだ、と驚いた。

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