イジワル御曹司と契約妻のかりそめ新婚生活
「そういうことで、とりあえず乾杯しましょう」
「え。あ、はいっ」
促されて、慌ててグラスを手に取る。
お互いに軽く掲げてひとくち飲むと、沈黙が訪れた。
こういう、仕事でもなくプライベートな時間での沈黙って、嫌いだ。相手が郁人なら、お互いにべらべら喋るタイプじゃないとわかっているから楽だけれど。
なぜか追い詰められているような気持ちになって余計に焦ってわからなくなる。
いや、でも、ここは何か話さなくては。少しずつ、こういうことに慣れていこうと思っていたのだから良い機会だ。
仕事の時よりもフル回転で頭の中を働かせている。
しかしまたしても、先に話したのは彼女の方だった。
「本当は、私ちょっとムカついてたんです」