Stockholm Syndrome【狂愛】


つけばいいけれど。


そばに置いていたリモコンのスイッチを押すと、起動音がして画面が華やいだ。


そこに映っていたのは、最近人気だとよく耳にする恋愛ドラマだった。


『……もう離さない。俺はキミだけを見てるよ。キミだけを、これからも愛していく』


顔立ちの整った人気俳優が、画面の中で嘘にまみれたつまらない言葉を吐き散らかす。


……偽りばかりだ。


本当に好きなら、もう二度と離したくないのなら、初めから自分の元につないでおくべきなのに。


でなければ、ほんの少し目を離しただけで誰かに奪われてしまうのに。


……テレビを移動させて、近所のレンタルビデオ店から何枚かのミステリー映画を借りて、沙奈と話をしながら犯人を推理する。


それだけの時間が、何よりも楽しく、何よりも大切だった。






その日から始まったのは、僕と沙奈だけの、安らかに流れていく日々。


朝食、昼食、夕食は僕が作ったものを沙奈の部屋へ運び、談笑しながら腹を満たす。


昼は沙奈の部屋でミステリー映画を鑑賞し、夜は壁越しに数メートル離れた彼女のことを想いながら眠る。


幸せな日々だった。


僕が持ちうる全ての愛を、彼女に捧げて。


予想外のことが起こったのは、沙奈と暮らし始めてから二週間が経った曇りの日のことだった。


目が覚めてコーヒーを飲んでいると、家にチャイムが鳴り響いた。


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