Stockholm Syndrome【狂愛】
はっと脳内に最悪の想像が浮かぶ。
……警察か?
沙奈がここにいることがバレたのか?
だとしたら、僕は——。
ナイフを取り出し、インターフォンを確認する。
すると、画面に映っていたのは——
大学の、友人だった。
……出るべきだろうか。
でも、どうしてここへ。
同じ高校に通っていた茶髪の友人は手にコンビニの袋を下げ、インターフォンの前で眉にしわを寄せながら身体を小刻みに揺らしていた。
……悩んだ挙句、ためらいながらインターフォンの通話ボタンを押す。
『おっ、やっぱいたのか。居ねえのかと思って帰るとこだったわ。時間、ある?』
「……どうしてここに?」
『まぁ、とりあえず出てこいって。最近全然ゼミに来てないから、ちょっと心配でさ』
断ろうとするけれど、友人はがんとしてインターフォンの前から動こうとはしなかった。
……会った方がいいだろうか。
彼の顔つきを見る限り、僕の顔を見るまでこの友人は帰らないつもりだろう。
でも、もしその途中で沙奈が声を出したら。
友人がそれに気づいたら。
……そのときは。
ナイフを懐に忍ばせ、チェーンをかけて、玄関の扉を開けた。
「久しぶり。あぁ、結構元気そうなんだな」
「……何で来たんだ」
「だから、心配して来たんだって。電話しても出ねえし、ここんとこ欠席ばっかだろ?何引きこもってんだと思って」
友人は微笑みを崩さず、僕の背後に視線を向ける。
「入っていい?」
「……ダメだよ。帰ってくれ」
「なんだよ、せっかく来てやったのにつれねえなぁ。ゼミの奴らも心配してたぜ。……マユミもさ」
「関係ないだろ。構わないでくれよ」
扉を閉めようとするも友人は隙間に手をかけ、頑なに帰ろうとはしない。