恋を忘れたバレンタイン
「彼女が言ったんです。私の事が重くなる時が来るって…… だから、俺は彼女より上に立とうと思ったんです。彼女が安心出来るように…… 
だけど、それだけで彼女の気持が俺に向くとは思えなくて……」

俺は、手にしていた缶コーヒーを口に運んだ。


「なるほど…… 彼女もあなたを苦しめたくないのでしょうね……」

「えっ?」

とても彼女が、俺の事を考えているとは思えなかた。


「人を好きになったら、その人と一緒に生きて行きたいと思うものじゃないですか? でも、それは同時に相手の人生を背負う事にもなる。重いと思うのが当然じゃないですか? 軽いと思う方が、私は信用できませんよ……」


 俺は、驚いて佐々木さんの顔を見た。


「重いと思って当然……」


「そうですよ…… 重いのは当然。ただ、それを責任もって背負うかどうかなんじゃないですか?
 彼女も、重いと分かって一緒にいてくれる人を探しているのかもしれませんよ。悪魔でも、私の推測ですがね……」


 佐々木さんの言葉に、胸の中にずっと引っかかっていた事が、すっと落ちた気がした。
 俺の中で、様々な事が整理し始める。


「あの…… なぜ、佐々木さん俺の事に気付いたんですか?」


「はははっ。暇なもので、つい皆さんの事を観察してしまうんですよ。浦木さんの目を見ていればわかります。だから、具合の悪かった浅島主任に気付かれたのですよね」

 佐々木さんは、全てを察しているかのように、優しい笑みを見せた。


「参りました……」

 俺は、頭を下げた。



「せっかくの休憩中に、余計な事をすみません……」

 佐々木さんはそう言って、ソファーから立ち上がった。
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