恋を忘れたバレンタイン
「浦木君……

 彼女が一瞬怯んだのが分かったが、俺は握った手を緩めなかった。


「はい?」

 俺は、彼女の顔を伺う。
 彼女は、少し不安そうに俺を見た。


「本当に、覚悟出来ているの? 私、素直じゃないし、かなり捻くれているわよ」

 彼女の言葉に、嬉しさのあまり胸が高鳴る。
 やっと、彼女が俺と向き合ってくれた気がしたから。
 彼女の素直じゃない事も、捻くれ者である事も、俺にとっては、愛しさに過ぎない。


「ええ、知っています。全部ね」


 俺は、そう言って彼女の手を繋いだままパソコンを閉じた。


「主任も、早く帰る支度して下さい」

 とにかく、彼女と二人になりたい。
 話したい事は沢山ある。
 それに、早く彼女に触れたい。

 急いでビルを出る。


「タクシーで帰りましょう?」

 俺が、焦って大通りへと向っているのに、彼女の呑気な声が俺の足を止める。


「ええ! いいけど、お腹すいたわ」


「分かりました。今夜はコンビニで我慢して下さい」


 俺にとって、精一杯の選択だ。


「そんなの絶対嫌! せめて、デパ地下にして。ホワイト―デーなんだから?」

「はあ? いつからそんなイベントにこだわるようになったんですか?」

 彼女の言葉に呆れるものの、遠慮せずに言う彼女を抱きしめたくなるくらい愛おしかった。


「別にいいじゃない……」



「わかりましたよ、デパ地下行きましょう」


 結局、俺は彼女の言葉に負けてしまう。


 それを、さとったのか彼女はさらパワーを益した。


 彼女に振り回されながらも、こんな時間を幸せだと思わずにはいられない。

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