恋を忘れたバレンタイン
 彼の言葉の意味が一瞬よく分からなかった。

 でも直ぐに冗談なんだと理解した。愛想のいい彼の事だ、そんな冗談をあちらこちらで言っているのだろ? 

 もう少しで真面目に受け取ってしまう所だった。
 あぶない、あぶない……


「ふふっ。沢山の本命の中の一つに入れて頂こうかしら?」

 そう言って、私はほほ笑んだ。

 自分でも感心するほど完璧な返しのはずだったのに、彼は、私を睨んだ。

 えっ? 
 何がいけなかったの? 

 でも間近で見る彼のキリッと睨む目に、胸の奥がドキッと音を立てた。

 なんだろう、この感覚は……


 そして、何故か彼は淋しげに視線を落とした。
 さっぱり意味が分からない。


「主任…… 俺の言った意味が、分かってないんですね。でも、いいです。とにかく今日は帰りましょう。送って行きますから」

 彼は、そう言って、チョコをポケットにしまった。
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