恋を忘れたバレンタイン
 もう一か月も前の事なのに、何一つ胸の動揺は変わっていなかった。

 始業のチャイムが鳴って、彼の周りから女の子達が引けて行く。
 見ない方がいいと分かっているが、目が彼の席へと向いてしまった。

 久しぶりに見る彼は、少し凛々しくなったような気がする。
 胸が、苦しいくらいに締め付けられた。


 何度も、何度も忘れようとした姿だ。
 でも、忘れるどころか、心の中に積もっていく一方だった。

 今までの別れた男性達と何が違うのだろうか?
 どうして、こんなに薄れていかないのだろうか?

 まだ、手にしたままのハンカチを見つめた。
 カスミソウか……
 彼の目に、私はどんな風に映っていたのだろう……
 仕事に厳しい、気の強い女のはず……

 だけど、あんなに弱っていた私を受け入れてくれた……
 そうじゃない、弱ってみっともなくなった自分を見せる事が出来たんだ。
 だから、私は、彼を忘れる事が出来ないのだろうか……


 そっと、彼の姿を探した。
 気付かれないよう、彼の背中を見つめた。

 そして、私は気付いてしまった。

 私が、彼を忘れられない理由を……
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