海軍提督閣下は男装令嬢にメロメロです!
これをされると、私はすっかり気持ちがよくなってしまう。ともすれば頭をすり寄せて、もっととねだりたくなってしまう。
アーサーさんの大きな手が、丁寧なしぐさで髪を梳く。私の髪がサラリサラリとアーサーさんの指の隙間をすべる。
かつて父ちゃんにしてもらった時より、ずっとずっと夢心地になる。なんだか自分が、すごく大切な存在にでもなったような、そんな気がした。
「……うむ、髪も日焼けで少々傷んでしまったか……そうだ! 今ならまだ、積み荷に鶏卵があるな! エレン、卵白でトリートメントをしよう!」
アーサーさんがなんの気なしにつぶやいたであろう台詞に、私はギョッと目をむいた。
「アーサーさん!? 船上で貴重な卵を髪に塗りたくろうだなんて、馬鹿言うなよ!?」
「そうか? 別段、俺の割りあての卵を――」
「馬鹿言うな! アーサーさんの分の食材をそんな無駄使いされて、うれしいわけないだろう!? 今度そんなことを言ったら俺は坊主にする」
アーサーさんはまるで、この世の終わりにでも直面したかのように、表情をゆがめた。