海軍提督閣下は男装令嬢にメロメロです!
「エレン、今後は食料を食す以外の用途で使わないと誓う。だから髪はどうか、それ以上切ってくれるな。頼む、この通りだ」
 アーサーさんから吹きすさぶ悲壮感のブリザードが、船長室の室温をグンッと下げる。
 ……さっぶ! うー、おかげでなんか用を足したくなっちゃったじゃんか。
「わかったよ、わかったから頭上げてくれって? 坊主にはしないよ。……俺、ちょっと用を足してくる!」
「エレン、ひとりで大丈夫か? 俺が一緒について行くか?」
「なっ!? 冗談やめてくれって!」
 ――バタンッ!
 私は逃げるように小走りで船長室を後にして、数メートルほど先にある厠に向かった。ってか、一緒にってなんだよ、一緒にってなぁ? シンシアとだって一緒に用を足したことないぞ!?
「……別に冗談を言ったつもりはなかったんだがなぁ」
 扉を一枚隔てた向う側、アーサーさんの恐ろしげなつぶやきは、当然私の耳に届いていない。

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