海軍提督閣下は男装令嬢にメロメロです!
厠を出たところで、偶然トレッドと行き会った。
「よう、トレッド。ずいぶんな大荷物だな。今日は運搬の当番か?」
トレッドは両手に大荷物を抱えていた。
「あ、エレン! 違うよ、これは樽の修理道具だよ。今日は俺、樽の修理当番なんだ」
「樽の修理?」
「そう、船では食料も飲料も樽詰めの保存だろう? 丁寧に樽の修理を積み重ねるのが長期保存には大事なんだ」
「へー! そんな当番もあるんだな」
私はアーサーさんの鶴の一声で、すでに一般の当番からは外れている。常にアーサーさんのそばに付き従って、指示の通りに算盤を弾いたり、文章を代筆したり、そんな楽な業務ばかりをこなしている。
「そうさ、樽を傷ませて中の水や食料を駄目にしようものなら悲惨さ。今だって少ない一日一袋の水袋が、行きわたらなくなってしまう。食料だってまたしかりだ」
「……あれ? 水袋や食料って、そんなに厳密な管理なのか? 二袋目の水袋、もらえたりってしないのか?」