海軍提督閣下は男装令嬢にメロメロです!
突然泣きだした私にアーサーさんは困惑の色を滲ませながら、優しく肩を抱き寄せた。そうしてなだめるように、背中をトントンと叩く。
私を見下ろすアーサーさんの眼差しも、肩を抱く腕も、どこまでも優しい。
「水だよ……! アーサーさんの一日分の水を、俺が奪っただろう!?」
けれど私には、こんなふうにアーサーさんに優しく慰めてもらう資格なんてない。
アーサーさんの優しい瞳を直視するのがつらくって、ギュッとまぶたをつむって一息に言いきった。
長期航海中に真水を得るには、海水を蒸留するか、雨水をためるかのどちらかになる。
雨水というのは天候次第で、不確定要素が強い。安定供給の手段としてはうまくない。
ならば海水の蒸留となるが、これだって海水を沸かすには燃料がいる。燃料もまた、無尽蔵にあるわけじゃない。
だから食料はもとより、水だってきちんと管理され、乗組員には規定量が配給される。
なんで私は、そんな簡単なことにも気づかずに、アーサーさんの分を……っ!
膝上で、震えそうになる両の拳を固く握りしめた。