海軍提督閣下は男装令嬢にメロメロです!

 突然泣きだした私にアーサーさんは困惑の色を滲ませながら、優しく肩を抱き寄せた。そうしてなだめるように、背中をトントンと叩く。
 私を見下ろすアーサーさんの眼差しも、肩を抱く腕も、どこまでも優しい。
「水だよ……! アーサーさんの一日分の水を、俺が奪っただろう!?」
 けれど私には、こんなふうにアーサーさんに優しく慰めてもらう資格なんてない。
 アーサーさんの優しい瞳を直視するのがつらくって、ギュッとまぶたをつむって一息に言いきった。
 長期航海中に真水を得るには、海水を蒸留するか、雨水をためるかのどちらかになる。
 雨水というのは天候次第で、不確定要素が強い。安定供給の手段としてはうまくない。
 ならば海水の蒸留となるが、これだって海水を沸かすには燃料がいる。燃料もまた、無尽蔵にあるわけじゃない。
 だから食料はもとより、水だってきちんと管理され、乗組員には規定量が配給される。
 なんで私は、そんな簡単なことにも気づかずに、アーサーさんの分を……っ!
 膝上で、震えそうになる両の拳を固く握りしめた。
< 112 / 203 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop