海軍提督閣下は男装令嬢にメロメロです!

 しけが落ち着きつつあるこの状況で、こんなにも揺れるのはあきらかに異常事態だと、素人の私にもすぐにわかった。
「船壁に叩きつけられないように、俺にしっかり掴まっているんだ」
 アーサーさんが、グッと私の肩を抱き寄せた。
 頬に触れる厚い胸板と、背中をガッシリと抱き込む逞しい腕の感触。起き抜けで平時よりも少し高いアーサーさんの体温。
 妙に胸が、ざわざわした。鼓動もバクバクと早鐘を刻む。
 だけどそれらは、揺れる船に対する恐怖からじゃなかった。
 緊急事態にあって、私は不謹慎にもアーサーさんを意識していた。これまでアーサーさんには、父ちゃんに対するのと似たり寄ったりの感情しか抱いてなかったはず。
 だけど今、私を逞しく抱きしめるアーサーさんの腕を、父ちゃんと同列には見ることができなかった。
「エレン? 大丈夫だ、この船の造りは強固だ。心配しなくとも、そうそう難破したりはしない」
 黙り込んだままの私に、恐怖で言葉も出ないと勘違いしたのだろう。アーサーさんは、抱きしめた私の背中をトントンとなだめるように優しくなでた。
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