海軍提督閣下は男装令嬢にメロメロです!

 私は内心の動揺をひた隠し、アーサーさんに湧き上がる疑問をぶつけた。
「アーサーさん、この揺れって、嵐のせい?」
 私の問いかけに、アーサーさんは表情を険しくした。
「……いや。嵐は昨夜のうちに、ほとんど抜けきっている。これは嵐の揺れではない。……おそらく、船の近くに艦砲が撃ち込まれたのだろう」
 ……え? 艦砲?
 一瞬、聞き間違いかと耳を疑った。けれどアーサーさんの厳しく引き結ばれた表情に、聞き間違いでもなんでもなく、これが現実のことだと悟った。
 ゴクリと喉が鳴った。
 艦砲を搭載した武装船にただの商船が狙われて、どうやって立ち向かえるというのか。
 沈むのを待つしかないのだろうか? もしかすれば、緊急避難用のボートを積んでいるかもしれない。けれどそれは、果たして乗組員全員が乗り込める数があるのだろうか。
 ……父ちゃん! 母ちゃん! 最後に見た両親の姿が思い浮んだ。締めつけられるみたいに、胸が苦しかった。
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