海軍提督閣下は男装令嬢にメロメロです!

 王家にあって、王家の血統一覧に名を連ねない、正当な王位継承者が最も才覚を秘めている……。皮肉なものだ。
 無言で控えるマーリンも同じ感想をもっているであろうことは、長年の付き合いから瞭然だった。
 どちらにせよ、違法操業船の元締めという罪を裁くのは俺ではない。
 それよりも俺が気になったのは、ローシャル伯父上がヘレネ様を養育するに至った理由だ。
 パラパラと調書を飛ばしてめくる。
 ……あぁ、これか。
 聴取記録によれば、こうだ。

『十八歳の若き国王は、偶然に出会った街の花売りの娘に恋に落ちた。若いふたりの恋は瞬く間に燃え上がり、やがて花売りの娘は、国王の子を孕んだ。国王は花売りの娘を正式に娶ろうと、その手回しに奔走した。けれど先代の洗濯女の悲劇は平民の間でも、まことしやかにささやかれていた。花売りの娘も当然、それを知っていた。悩み抜いたあげく、花売りの娘は、子は流れたと国王に告げ、船で国を去った。けれど無理が祟ったのか、娘は産み月よりも一カ月早く、船上で出産日を迎えた。出産は命懸けで、花売りの娘は命と引き換えに、珠のような赤子を残してこの世を去った』
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