海軍提督閣下は男装令嬢にメロメロです!
「あんまり見開くと綺麗な瞳が落っこちてしまうぞ?」
 エレンはいたく感じ入った様子だった。
 エレンの頬をツンツンとつつく。
 すると突然、エレンの目から、ホロホロ、ホロホロと透明な涙の滴がこぼれ、俺の指を濡らす。
「エレン!?」
 俺はエレンの頬を伝う涙の美しさに動揺した。
「……アーサーさん、そんな言葉、もらったことがなかった」
 俺を見上げるエレンの透き通る瞳も、その瞳を滲ませる涙も、エレンを彩るすべてが奇跡みたいに美しい。
 その美しい瞳に今、俺だけが映っていた。
「父ちゃんはずっと、私の憧れだった。父ちゃんの気を引きたかった。だけど、いつも父ちゃんの一番は母ちゃんで、その順位は絶対に覆らないってわかってた。それを不服には思わない。私の憧れは、母ちゃんだけを一途に愛する父ちゃんだから」
 ここでエレンは、一度言葉を切った。
 俺は息をのんで、その先の言葉を待った。
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