海軍提督閣下は男装令嬢にメロメロです!


 けれど出航当日、待てど暮らせどエレンが来ない。
「船長、その少年、来ないってことは航海にビビッてやめたんじゃないですかね? 来ないなら来ないで、その方が俺たちにとってもいいじゃないですか。もう間もなく出航時刻です、舷梯を上げましょう」
「……ふむ」
 果たして本当にそうだろうか? 確固たる決意で俺に乗船を迫ったエレンが、直前で乗船をやめるなど、そんなことがあり得るのだろうか……。
 いや! エレンは絶対に港に来ている!
「すまん! 出航までには必ず戻る!」
「ちょっ! 船長!?」
 マーリンの困惑しきった声を背に、俺は乗組員が今まさに上げようとしていた舷梯を駆け下りた。
 実はこの二日の間で、俺はエレンに感じた不思議な感覚の正体について、ひとつの可能性に行きついていた。
 それは、祖国バーミンガー王国からの出航前夜、陛下より聞かされたあの話……。
 性別も年齢も異なるエレンが、陛下が求める女性本人ではあり得ない。けれど、もしかすればエレンは、陛下の探し求める女性と、なにか関係があるのではないだろうか?
< 22 / 203 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop