海軍提督閣下は男装令嬢にメロメロです!

 けれど俺が乗せないと一声告げれば、エレンはすぐに次の船に乗船を願い出てしまう。そんなことをすれば、エレンの行く末など火を見るよりあきらかだった。
 それをわかっていながら、エレンを他の船に乗せるなど、できるわけがなかった。
 しかし理由は、それだけではない。
 この時、俺の第六感がエレンを手放してはならないと、告げていた。
 この不思議な感覚を、言葉で言い表すのは難しい。とにかく、エレンをこのまま捨て置いてはならないと、理屈ではなく湧き上がる本能が、俺を突き動かしていた。
 俺はエレンの乗船を許し、その手に乗船証を渡したのだ。
『船長、任務の遂行と船内の規律をなによりも重んじるべき船長がなに血迷ってるんですか?』
 もっともすぎるマーリンの問いかけに返す言葉もなかった。
『すまん。しかしだな、年端もいかない少年がボロ雑巾のようになって打ち捨てられる末路など見過ごせない』
『……人のいいことで。ハァ……とはいえ、乗船証まで渡してしまったというんだから今さらどうしようもありませんね。いいですか? 自分で拾ってきたんですから、自分で世話してくださいよ? 皆自分の任務で忙しいんですから』
『わかった! 俺が自分で世話をする! お前たちの手は絶対に煩わせん!』
 容認を得た俺は、なぜか俺よりも幅を利かせる恐ろしい我が部下にぶんぶんと首を縦に振っていた。

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