海軍提督閣下は男装令嬢にメロメロです!
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「船長、なんだって船長が厨房にいるのか理由を聞かせてもらえますか?」
しゃがみ込み、慣れない芋の皮むきに悪戦苦闘していれば、背中に地を這うような低い声を聞いた。
「ん?」
振り返れば厨房の扉の外から、こめかみに青筋を立てたマーリンが、俺を睨みつけていた。
「ふむ。急だが、今晩の晩飯当番を交代したんだ。だから俺が厨房にいる」
目の前には、いまだむききれていない芋が山積みだった。俺は皮をむく手を止めないまま答える。
「船長の包丁さばきが危なっかしくて見ていられないと、部下が副船長室にいた俺に泣きついてきた時は、いったいなんの冗談かと思いましたよ。それがまさか、……俺は本当に頭が痛いですよ」
「イテッ」
芋をむく手がツルリとすべった。見れば親指の胎に、血が一筋滲んでいた。
……ふむ。おもむろに、舌先でペロリとひと舐め。