海軍提督閣下は男装令嬢にメロメロです!


「……あれだけ盛大に嘔吐しまくってたアレが女、ですか?」
 俺からの聴取を終えたマーリンは、嫌そうに顔をしかめた。
 小刻みに肩を震わせて嘔吐するエレンの姿は、思い出せば今でも痛ましさに涙がこぼれそうだ。
「間違いないんですか?」
「間違いない。その、なんだ? きちんとこの目で確認したからな!」
 俺が胸を張って断定すれば、なぜかマーリンは特大のため息をついた。
「……そうですか。乗せてしまったからには、今さら言っても仕方ないとはいえ……あなたって人はよくもまぁこんな特大の面倒事を引き込んでくれて」
「すまん」
 口には謝罪をのせながら、けれど本音と建て前は違う。
 仮にエレンが他の船に乗船していたと考えれば、目の前が恐怖で真っ黒に染まる。
 俺の船でよかった。俺がエレンを見つけてやれて、よかった!
 俺の船ならば、俺が守ってやれる。エレンに降りかかる災厄はすべて、俺が振り払う!
「部下の中に、そうそう間違いを起こす輩がいるとも思えません。しかし長い海上生活に紅一点はさすがに少し、うまくありません。年の頃の近い部下の中から、うまいこと気配りできそうな者を見繕いましょうか……」
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