海軍提督閣下は男装令嬢にメロメロです!
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――コンコンッ。
「エレン、起きていたのか?」
ノックと共に船長室の扉を開ければ、エレンが寝台に腰掛けて祈りを捧げていた。就寝前でもないこんな半端な時間にも祈りを捧げるなど、エレンはよほど信仰深いのだろう。
「うん。アーサーさん、俺は別に病気じゃないんだから、そうそう寝てばっかりもいないよ」
机の上によけていた治療道具を手に、エレンのもとに向かう。
「そうか。ん? 顔に冷やしたガーゼをあてていなかったのか?」
ふと、エレンの顔にあてていたガーゼがなくなっているのに気がついた。
「あ、トレッドが訪ねてきてはずしちゃったんだ。だけど、それまではずっとあててたよ。おかげでだいぶ火照りが取れた」
エレンの口から聞かされた名に、殺意にも似た思いが湧き上がる。
「そ奴はどんな話があってこの部屋を訪れたんだ?」
尋ねながらも、俺はおおよその事情をすでに把握していた。
エレンの手当てを終えて退出した後、俺はなぜエレンが雑巾で日がな一日甲板を磨くなどという状況に陥ったのか、聞き取りに向かっていた。