愛したい、愛されたい ─心を満たしてくれた君へ─
俺が話し終えると、志織は俺の手を握り、微笑みながら愛しそうに俺を見つめた。

「潤さんは恋とも呼べないし相手が自分をどう思ってたかもわからないって言ったけど、それはきっと恋だったんだと私は思うよ」

「……なんで?」

「相手のことが好きじゃなかったらそこまで愛されたいなんて思わないし、ショックも受けないんじゃないかな。それに英梨さんも潤さんのことがすごく好きだったから、本当のことが言えなかったんじゃないかと思うの。潤さんは愛されたことがないって思い込んでたから、本当は愛されてたことも、人の愛し方もわからなかっただけなんだと思う」

志織はいとも簡単に、俺がずっと出せなかった答を導きだした。

英梨さんとの間にあった出来事には罪悪感とか劣等感とか虚無感とか、とても一言では言い表せない複雑な思いがあって今まで誰にも話せなかったけれど、志織に話して良かったと心の底から思う。

「そうか……俺、あの人のこと好きだったんだ……」

「きっとね。……ちょっと妬けるけど」

志織はそう言って立ちあがり、使い終わった食器をキッチンに下げて洗い始めた。

< 80 / 82 >

この作品をシェア

pagetop