というわけで、結婚してください!
 尊に訊いているようだった。

「何故、俺の許から鈴を連れ去った。

 俺に跡継ぎの座を追われても。

 力をそそいでいたプロジェクトから外されて、支社に飛ばされることが決まっても。

 お前は文句ひとつ言ってこなかったのに」

「いや、ひとつは言ったと思うが……。
 お前が聞いてなかったんだろ」
と尊はバックミラー越しに征を見ながら言っていた。

 ま、そうかもな、と鈴は思う。

 この兄弟、どっちも人の話を聞いてなさそうだ。

 それにしても、目の前で緊迫した会話が繰り広げられているのをびくびく見つめているこんなときこそ、ぽすに居て欲しかった、と鈴は思っていた。

 そっとあの温かい毛を撫でるだけで、気持ちが落ち着くのにな~。

 そう思ったとき、尊がぽつりと言うのが聞こえてきた。
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