というわけで、結婚してください!
 尊との関係がはっきりしないまま、勢いでついて来てしまったので、何処までなにをしていいのかわからないのだ。

 尊の婚約者だとか、妻だとか。

 そういう立場の人間だったら、部屋に風を通して、掃除して、荷物を運び込む算段をして、隣近所にご挨拶をして、とやることはたくさんあるのだろうが。

 今の自分は実に宙ぶらりんな立場なので、あんまりいろいろやっても尊の迷惑になるのではないかと思って、動けない。

 実は、さっき、駐車場で、社宅の奥さんらしき人と出会ったのだ。

 遠かったので、二人で会釈するにとどまったのだが。

 あれがもし、近かったら? と鈴は思う。

 尊さんは、よろしくお願いします、と言えるけど、私は、此処でよろしくできるかわからないので、頭を下げることくらいしかできない。

 ……今、ちゃんとご近所さんに挨拶するために、尊さんの婚約者になりたいと思ってしまいましたよ。

 本末転倒です、と反省する鈴の前で、尊は困った感じのまま、突っ立っている。

 がらんとした、なにもない日当たりのいい部屋。

 尊はかなり迷ってから、口を開いた。
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