というわけで、結婚してください!

 こいつは、本当はなにもかもわかってるんだろうな、と思っていた。

 自分も鈴の名前を隠したりはしなかったし。

 だが、窪田が逃亡の手助けをしたと思われてはまずいので、自分の口からはなにも語らなかったのだ。

 窪田は天井を見たまま言ってくる。

「私、実は、ずっと歯がゆく思っておりました。
 尊様が反抗なさらないので。

 家を出されたときも、本社を出されたときも――」

 でも、と窪田はこちらを振り向き、言ってくる。

「一番、すごいとこで、ぶちかましてくれましたよねえ。
 温厚な人を怒らせると怖いってことのことですよね」

 いや、別に俺は温厚じゃないが……。

 まあ、征と比べれば、温厚か? と思う。

 征のように、非情に切り捨てることができないので、次期社長には相応しくない、と父には思われたようなんだが。

 そんなことを考えていた尊と、まだ呑気に風呂に入っている鈴が、窪田が言った言葉の本当の意味を知るのは、もう少し先のことだった。






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