というわけで、結婚してください!

 さっき何処かへ出かけたまま、まだ戻ってきてはいないようだった。

 うーむ。
 本当に、ひとりになってしまいましたよ、とまだ風呂に入ったまま、鈴は思う。

 このまま尊さんが帰ってこなかったら、マヌケだな……。

 ひとり呑気に風呂になど入っている辺りが特に。

 今、此処にお父さんたちが踏み込んできたら、どうしよう、と鈴は思った。

「なにをやっとるんだ、お前は~……」
とあの父でさえ、呆れて言葉を失いそうだ。

 ……出よう、と思い、鈴が浴室の扉を開けたとき、ちょうど、
「鈴、ディナーはテラスがいいか、部屋がいいかと、窪田が――」
と言いながら、尊が扉を開けた。

 ぎゃーっ、と鈴は乙女にあるまじき悲鳴を上げてしまう。

「痴漢ーっ」
「違うっ」

「人殺しっ」
「全然違うっ」

「強姦魔ーっ」
「微妙に違……っ。

 ってか、お前が勝手に開けたんだろうがっ」

 ――と怒鳴られた。




< 63 / 477 >

この作品をシェア

pagetop