というわけで、結婚してください!
「俺が連れて逃げたんだろう?
 お前が気に病むことはない」

「でも、途中で逃げられるチャンスは何度もありました」

 凶器で脅されていたわけでもない。

 強く腕をつかまれていたわけでもない。

 少し話して、暴力に訴えるような人でもないとわかっていたのに――。

「人間誰でも、そういう気の迷いはあるだろ。
 ましてや、三度目しか会ってない男と結婚するときには」
と尊は言ってくれる。

 やさしいな、と思っていた。

 どうして、私の結婚相手はこの人じゃなかったのかな、と思ってしまう。

 尊が清白の跡継ぎだったなら、尊の方が花婿だった気がするのだが。

 もし、尊さんが私の夫になる人だったら、私は式場から逃げていただろうか?

 あの教会で。

 私の前に居たのが、この人で、さらいに来たのが、征さんだったら……?
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