恋愛零度。

最後に奏多と話したのは、その年の冬だった。

はらはらと細かい雪が降った日、この場所で。

久しぶりに会う奏多はなんだか、寂しそうだった。

そして、こんなことを訊いてきた。

『真白、学校、楽しくない?』

なんでそんなことを訊くんだろう、そう思いつつ、私は、うん、と答えた。

『……あんまり、楽しくない』

友達いないし、楽しいこともないし。奏多とあまり会えないからもっと楽しくないとは、なんとなく言えなかった。

そっか、と奏多は言った。

『じゃあさ、なるべく、楽しいことを考えようよ。真白はいま、なにがしたい?』

『……水切り』

そう言うと、奏多は笑った。

『なんだ、中学になっても全然変わってないなあ』

そう言いつつも、じゃあ探すか、としゃがんで石を探しはじめる奏多。

『いくよ』

『せーのっ』

『あ……っ!』

ぴょん、ぴょん、と小石が数回、水面を跳ねた。

『やったあ!』

いま思えば、水面が凍りかけていたのかもしれないけれど。

私たちは嬉しくて、小さい頃みたいに、手を取り合って笑った。

『手、つめた』

『奏多こそ』

雪が降るなか、素手で石なんて探したりしたから、私たちの手はいまにも凍りそうなほど冷たくて。


ーーカシャ。

奏多が、おもむろにポケットからデジカメを取り出して、シャッターを押した。

『えっ、なに、急に』

『なんか、写真撮りたくなってさ。卒業記念だよ』

ふうん、と頷く私に、

『真白、強くなれよ』

ふいに、奏多がそう言った。

『ひとりでも大丈夫なように、強くなるんだ』

『奏多……?』

ひとりでも大丈夫なようにって……どうしてそんなこと言うの?

前は、いつでも飛んでいくからって言ってくれたのに。

そう思ったとたん、奏多を、すごく遠くに感じた。

どんどん離れていってしまうのがわかっていたのに、止められなかった。

私はいつも臆病で。気になるのに、なにも訊けなくて。

なにもできないうちに、奏多は中学を卒業して、

そしてーー、

いなくなった。

なにも言わずに、私の手の届かないどこか遠い場所に、行ってしまったんだ。

< 131 / 265 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop