抱き締めたら止まらない~上司の溺愛につきご注意下さい~
いや待てよ。

私はドアノブに手をかけたが、開けることを躊躇った。

当たり前だ。今はもう夜の9時になろうという時間だ。

こんな時間に誰が来るというのか?

私は怖くなって、ドアノブを握りしめた。

「…べ」
「…」

「渡辺、俺だ」

…聞いたことのある声に、顔を上げた。

「藍原だ。開けろ」

名前を聞いた私は、迷わずドアを勢いよく開けた。

それと同時に、私は大きな腕の中に包まれた。

「あ、藍原部長?!」
「何で勝手に出ていったりした?」

抱き締められたまま、私は困惑する。

「渡辺答えろ。まだ犯人も捕まっていないのに、こんなところに帰ってきて、何かあったらどうする?」

「…藍原部長に、これ以上迷惑をかけないようにです」

私の答えに、抱き締めた腕は緩み、驚いた顔で私を見下ろした藍原。

「…俺がいつ、迷惑だなんて言った?」
「いってません。藍原部長は何も…でも、これ以上一緒に住んでたら、変な噂をばらまかれかねないから」

「…どういう事だ?話が見えない」
「早乙女さんに」

「早乙女?」
「…早乙女さんに、外で一緒に食事をしてるところを見られました」

「それくらい大したことじゃないだろ?上司と部下なんだから」

「そうですけど…早乙女さん、私と部長の関係を疑ってるみたいで。もし、一緒に住んでるなんて分かったら何をしてくるか」

私の言葉に、藍原は困ったように笑って、私の頭を撫でた。

「お前は、俺が苦手なんだよな、いや、嫌いなんだと思う。だから、変な噂なんて困るよな」

藍原の言葉に、私は何度も首を降った。

そうじゃない。
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