溺甘同棲~イジワル社長は過保護な愛を抑えられません~
「あ、ひょっとして今すごく忙しかった?」
片瀬は、グレーのスーツ姿の優花を見て仕事中だと思ったのかもしれない。職安へ行くために着ているとは思わないだろう。
「あ、ううん、忙しくは……。実は今、就活中で……」
言いたくはなかったが、真っすぐな片瀬の瞳を見て嘘をつく勇気をもてない。
「仕事探してるの?」
「うん、会計事務所で働いていたんだけど」
プライドが邪魔して、人員整理で解雇されたことまでは言えなかった。
「そうなのか……」
瞬間、片瀬の顔が曇る。
(……やっぱり言わなければよかった)
この場限りの会話なら、嘘でも会社員だと答えても問題なかったはずだ。でも、正直に打ち明けたことを後悔したところで、もう遅い。